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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)9520号 判決

原告(一部脱退) 住友林業株式会社

参加人 山貞木材合名会社

被告 秋北木材株式会社 外一名

主文

被告秋北木材株式会社は原告に対し金九八三、三三三円を支払え。

被告秋北木材株式会社は参加人に対し、別紙物件目録〈省略〉第二記載の建物を明渡し、且つ、同目録第四記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明渡すと共に、昭和三五年九月二六日から右建物明渡に至るまで一ケ月金四万円の割合による金員を支払え。

原告その余の請求は、いづれも棄却する。

参加人その余の請求は棄却する。

訴訟費用は昭和三三年(ワ)第四五八一号、昭和三五年(ワ)第八〇三七号各事件については四分し、その三は被告秋北木材株式会社の、その余は、原告の各負担とし、昭和三五年(ワ)第九五二〇号事件については全部原告の負担とする。この判決中、金員支払の点についてはいずれも無条件で、建物及び土地の明渡の点について参加人は金二五万円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

(昭和三三年(ワ)第四五八一号、同三五年(ワ)第八〇三七号事件)

第一、当事者の申立

(原告) 被告秋北木材株式会社は原告に対し、昭和三二年一二月一日から同三五年九月二五日まで一ケ月金一五万円の割合による金員を支払え、訴訟費用は同被告の負担とする、との判決を求める。

(参加人) 被告秋北木材株式会社は、参加人に対し、別紙物件目録第二記載の建物を明渡し、且つ、同目録第四記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明渡すとともに、昭和三五年九月二六日から右建物及び土地明渡済に至るまで一ケ月金一五万円の割合による金員を支払え、訴訟費用は同被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被告秋北木材株式会社) 原告及び参加人の請求をいづれも棄却する、との判決を求める。

第二、当事者の主張

(原告)〔請求原因〕

一、訴外東亜木材加工株式会社は、訴外富岡八幡宮の所有に係る別紙物件目録第一記載の土地につさ賃借権を有し、右土地上に同目録第二及び第三記載の建物(昭和三五年一月一五日、右建物のうち第三記載の建物の全部及び第二記載の建物の一部が火災により滅失した)を所有していたものであるが、

二、原告は次の経緯により同会社から、右両建物の所有権及び右土地の賃借権を取得した。即ち、

(一)  原告は、昭和三一年末頃から右会社と木材の販売取引を始め、昭和三二年五月末頃右会社に対し、約一五〇〇万円の売掛金及び約束手形金債権を有するに到つたが、右会社は、第一回目の約束手形金の支払も不可能な状態で、右会社の支払能力が不安であつたところから、右会社との間に、同年五月三一日、根抵当権設定商取引契約を締結し、別紙物件目録第二及び第三記載の建物及び、その備付機械一式につき限度額を一〇〇〇万円とする根抵当権を設定すると共に、債務不履行の場合は、原告の一方的意思表示により、代物弁済として右建物の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約(右商取引契約第一七条)をなし、同年六月五日右根抵当権設定登記(東京法務局墨田出張所昭和三二年六月五日受付第一五四五二号)並びに右代物弁済の予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記手続(東京法務局墨田出張所昭和三二年六月五日受付第一五四五三号)を完了した。

(二)  しかるに、其の後右会社は、原告に対する前記債務の支払を怠つた上に、原告に対し、金融援助を求めてきたので、前記担保物件の確実な換価を確保するため、昭和三二年九月六日大阪都島簡易裁判所において右会社代表取締役梅北未初の委任した同会社の代理人後藤三郎弁護士との間に、「東亜木材加工株式会社は、原告会社に対し、同年八月から完済に至るまで毎月末日限り金四〇万円を分割して、合計金九、七二九、七一〇円の債務を弁済すべきものとし、右分割弁済金の支払を二回以上怠つた時は期限の利益を失い、原告の一方的意思表示により、別紙物件目録第二、第三記載の建物の所有権及び同目録第一記載の土地に対する賃借権を一括して、前記債務金並びに別に原告が右会社に融資した金五〇万円の債務の代物弁済として、原告に移転する」旨の裁判上の和解(都島簡易裁判所昭和三二年(イ)第二九三号)をなした。

(三)  ところが右会社は分割弁済金の支払を一回もなさないので、原告は右会社に対し、昭和三二年一一月九日内容証明郵便により右建物の所有権及び右土地の賃借権を前記債務の代物弁済として充当し、その権利を取得する旨の予約完結の意思表示をなし同郵便は同月一一日右会社に到達した。

(四)  よつて原告は右意思表示の到達した日である昭和三二年一一月一一日、前記建物の所有権並びに前記土地の賃借権を取得し、(五)同年一二月六日、前記和解調書に基き、右建物につき所有権移転登記手続(東京法務局墨田出張所昭和三二年一二月六日受付第三五四七九号)をなし、賃借権譲渡については、昭和三二年一二月二七日に近い将来右借地権を本件建物とともに参加人に譲渡することを条件として、右建物所有権取得の日に遡つて訴外富岡八幡宮の承諾を得たものである。

三、しかるに被告秋北木材株式会社は、昭和三二年一一月末頃から権限なくして右建物を占有し、且つ本訴係属中に右土地上に別紙物件目録第四記載の建物を建築所有して右土地を占有し、因つて原告に対し一ケ月金一五万円の割合による賃料相当額の損害を与えている。

四、よつて原告は、被告秋北木材株式会社に対し、(i)焼残つた別紙物件目録第二記載の建物につき、所有権に基き同建物を明渡すべきこと、(ii)右土地の賃借権者として右土地の所有者の権利を代位行使して、別紙物件目録第四記載の建物を収去して右土地の明渡をなすこと、(iii )昭和三二年一二月一日から右土地及び建物明渡済まで一ケ月金一五万円の割合による損害金の支払を求めるために本訴請求に及んだものであるが、原告は、昭和三五年九月二六日参加人山貞木材合名会社に対し、右土地の賃借権及び別紙物件目録第二記載の建物を譲渡したので、右(i)、(ii)の請求から脱退し、(iii )のうち、昭和三二年一二月一日から同三五年九月二五日までの間につき一ケ月一五万円相当の損害金の支払を請求する。

(抗弁に対する答弁)

一、被告の抗弁第一項(一)の事実は全て否認する。後藤弁護士に対する委任が原告の代理人によつてなされたとしても右委任は訴外会社の代表者の和解条項の添付された委任状によつてなされたもので有効である。

二、同第一項(二)の事実は否認する。原告が東亜木材加工株式会社から譲受けたのは、右会社の重要な財産ではあつても営業そのものではないから右和解をもつて営業の譲渡をなしたものと目すべきものではない。なお本件和解は右訴外会社の消滅を前提又は予測してなされたものではなく整理再建のためになされたものであるから営業の譲渡と見るべきものではない。

三、同第二項の事実は全て否認する。

(再抗弁)

一、仮に被告主張の如き賃貸借契約が締結されたとしても右賃貸借契約は、通謀虚偽表示で無効である。即ち、被告秋北木材株式会社及び訴外東亜木材加工株式会社は、右建物の所有権が既に昭和三二年一一月一一日に原告に移転していることを了知しながらその後に専ら原告の権利行使を妨げ、不当な利得を収めるため、通謀してなした虚偽のものであるから右契約は無効である。

二、仮に右契約が虚偽のものでないとしても被告会社の代表者は賃貸人と主張する訴外会社の設立以来の取締役であり、被告会社の工場は本件第二の建物に隣接している上原告が根抵当権の設定契約をなすまで本件第二の建物は被告会社の所有であつたもので訴外会社に所有権を移転する際原告から金員を受領しているもので賃借前に既に原告に所有権が移転し右訴外会社が原告に移転登記義務あることを知りながら前項記載の目的で賃借したもので被告会社は、悪意の第三者であるから、原告の所有権移転登記の欠缺を主張出来ないものである。したがつて、原告は被告に対しても昭和三二年一一月一一日に既に所有権を取得したことを主張し得るものであるから被告は、右賃借権を以つて原告に対抗し得ないものである。

三、仮に、右賃貸借契約が有効で、且つ、原告に対抗し得るものであるとしても、右賃貸借は、期間満了により終了した。即ち、原告の本訴請求は、賃貸借の更新拒絶をも含むものであり、右更新拒絶には前記事情に照らして正当な事由があるから、右賃貸借契約は昭和三四年六月三一日限り、期間満了により終了したものである。

(参加人)(参加の理由及び請求原因)

一、参加人は、昭和三二年一一月頃原告から別紙物件目録第二記載の建物の所有権及び同目録第一記載の土地の賃借権を譲受ける旨を約し、

二、昭和三五年九月二六日右建物につき、所有権移転登記手続を完了し、右土地賃借権の譲渡については、予め、富岡八幡宮の承諾を得ていたものである。

三、その他、原告主張の請求原因事実を全て援用する。

四、よつて参加人は、被告秋北木材株式会社に対し、(i)所有権に基き別紙物件目録第二記載の建物を明渡すべきこと、(ii)賃借権者として、富岡八幡宮の所有権を代位行使して、同目録第四記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明渡すべきこと、(iii )昭和三五年九月二六日から右建物及び土地明渡済まで一ケ月金一五万円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求めるため本件参加に及んだ。

(抗弁に対する答弁、及び再抗弁)

一、原告の主張を全て援用する。

二、賃貸借の更新拒絶につき参加人が主張する正当事由は次の通りである。即ち、

参加人は以前より深川において材木問屋を営み、予ねてより、製材工場をも併せ経営しようと考え、その工場を物色中のところ、偶々、昭和三二年一一月頃取引先である原告会社から別紙物件目録第二及び第三記載の工場を、既に訴外東亜木材加工株式会社との間に前記の如き裁判上の和解が成立しており、明渡もそれ程時間は掛からないとのことで紹介され、自己の工場として使用する目的で右工場を買入れる約束をして、即刻明渡を受け得るものと期待していたところ、被告会社は、右東亜木材加工株式会社と共謀の上、右工場の明渡を妨害するため、本件賃貸借契約を締結したものである。よつて本件賃貸借の更新拒絶には正当事由がある。

(被告秋北木材株式会社)〔原告及び参加人の請求原因に対する答弁〕

一、原告主張の請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項(一)の事実中、主張の如き根抵当権設定登記及び仮登記手続がなされたことは認め、其の余は不知。

同項(二)の事実中、原告と訴外会社の代理人後藤三郎弁護士との間に主張の如き裁判上の和解がなされたことは認め、その余の事実は不知。右和解は後記の通り無効のものである。

同項(三)の事実は不知。

同項(四)の事実は否認する。

同項(五)の事実中、主張の如き登記がなされた事実は認めその余は不知。

三、同第三項の事実中、被告秋北木材株式会社が、原告主張の建物を昭和三二年一二月一日以後占有使用していること、及び本訴係属中、原告主張の土地上に主張の如き建物を建築、所有していることは認めその余の事実は否認する。

被告会社が右建物及び土地を占有しているのは、昭和三二年七月一日からで且つ右占有は正当な権限に基くものである。

右建物の賃料額は、昭和三三年一月分からは一ケ月一〇万円火災のあつた昭和三五年一月一五日からは一ケ月四万円である。

四、同第四項及び参加の理由第一項記載の事実中、参加人が、本件土地賃借権、及び建物所有権を譲受けた事実は不知、その余の事実は争う、但し、参加人の参加及び原告の脱退(一部脱退)に異議はない。

〔抗弁〕

一、前記裁判上の和解は無効である。即ち、

(一)  右和解は、訴外後藤三郎弁護士が訴外東亜木材加工株式会社の代理人名義で締結したものであるが右は無権代理で無効である。即ち、

(1)  訴外東亜木材加工株式会社は、右後藤弁護士に右和解締結の権限を与えたことは無く、右和解は右訴外会社の代表者梅北末初がその意志に基づかずに記名押印した無効の白紙委任状を利用して、原告会社代理人山中隆文、同池田俊両弁護士が勝手に選任した前記後藤三郎弁護士との間になされたものであるから無効である。

(2)  仮に、訴外会社代表者梅北の意志によつて右白紙委任状が作成されたもので、訴外会社が原告会社代理人に、前記裁判上の和解締結のための代理人選任を一任したものであるとすれば、右選任行為、及び和解締結行為は双方代理の規定の趣旨、若しくは弁護士法第二五条に違反するもので、無効である。

(二)  仮に(一)の主張が理由ないとしても、右裁判上の和解の和解条項は東亜木材加工株式会社の全財産を原告会社に移転することを内容とするもので、右は商法第二四五条第一項第一号に規定する営業の譲渡に該当し、右会社の株主総会の特別決議を要するものであるにも拘らず、かゝる特別決議がなされていないから無効である。

二、仮に右裁判上の和解が有効とされ、原告が本件建物の所有権及び借地権を取得したものであるとしても、被告会社は右建物及び土地につき、原告に対抗し得べき賃借権を有するものである。即ち、

(一)(建物につき)、被告会社は、昭和三二年一一月二七日訴外東亜木材加工株式会社から、賃料一ケ月金一五万円、期間、昭和三二年七月一日から二ケ年間の約定で本件建物を賃借したもので、同年七月一日既に右建物の引渡を受けていたものである。

而して、原告が右建物の所有権を取得したのは、右建物につき登記をなした昭和三二年一二月六日である(代物弁済によつて所有権が移転するのは、現実に登記又は引渡があつた時である。仮に原告主張の如く、同年一一年一一日に所有権が移転したとしても、原告は被告に対し、登記をなす以前において所有権を取得したことを対抗出来ない)から被告会社は、爾後の物件取得者たる原告に対し、借家法第一条第一項により右建物の賃借権をもつて対抗しうるものである。

(二)(土地につき)被告会社は、訴外東亜木材加工株式会社から右土地を転借しているものである。

〔原告及び参加人の再抗弁に対する答弁〕

一、原告主張の再抗弁第一項の事実は否認する。仮に被告が原告の所有権取得の事実を知悉していたとしても、被告の賃借権の効力には何ら影響はない。

二、同第二項中被告会社の代表者が訴外会社の取締役であること、本件第二の建物が元被告会社の所有であつたことは認めるがその余の事実は否認する。

三、同第三項は否認する。原告が更新拒絶の通知をした事実がないばかりでなく原告主張の事情は借家法第一条の二に規定する正当事由に該当しない。

仮に原告が右意思表示をなしたものと認められるとしても、右意思表示の効力は、原告が賃貸目的物を参加人に譲渡したことにより消滅したものである。

なお参加人主張の事由は右正当事由判断に当つて参酌されるべきではない。

更に、次の理由によつて、右更新拒絶には正当な事由がない。即ち

(1)  本件工場は、もと被告の所有であつたがその営業不振から、昭和三一年一一月頃訴外梅北末初、同田中清等の協力を得て訴外東亜木材加工株式会社を新設し、被告会社代表者木村末治が、右会社の経営に参加する約定の下に当時時価約二千万円の本件工場を、八百万円で右会社に譲渡したものであるが右会社の経営を担当した梅北末初が製材業に全く素人であつたこと、並びに原告会社から買入れた原木が粗悪品であつたことなどにより、忽ち失敗して昭和三二年六月、右会社は休業状態に入つた。そこで被告は右会社から本件工場を賃借して右工場を再建することを考え、右会社と話合の上、昭和三二年七月頃から工場の整備に着手し、整備の出来た部分から順次操業を開始していたが、同年一一月二七日になつて正式に賃貸借契約を締結したもので、原告の権利行使を妨害するために右賃貸借契約を締結したものではない。

(2)  原告会社は、自ら粗悪品を売込み、それが原因で東亜木材加工株式会社が工場閉鎖になつたのにも拘らず、他の債権者を排除して右会社の全資産を独占せんとして右会社の当時の代表者梅北末初の無知軽卒に乗じて、前記の如き裁判上の和解をなして本件工場を取得したものであり、右東亜木材加工株式会社が原告会社及び参加人に対し債務全額及び損害金の即時返済をなすことを条件に、本件工場の返還を申込み、円満解決を計るべく誠意を示したにも拘らず、これに応じないものであつて原告等の行為は商業道徳に反する。

(3)  参加人は材木の問屋が本業で、しかも他に工場用地としての土地を所有しているから本件工場を必要とする特別の事由がない。

(4)  これに反し、被告会社は、本件工場以外に適当な場所を見つけることは困難で、被告会社にとつて、本件工場を明渡すことは会社の破滅を意味する。

よつて、原告の更新拒絶には何ら正当な事由がない。

(昭和三五年(ワ)第九五二〇号事件)

第一、当事者間の申立

(原告) 被告東亜木材加工株式会社は、原告に対し、別紙物件目録第二記載の建物につき、東京法務局墨田出張所、昭和三二年六月五日受付第一五四五三号による、昭和三二年五月三一日の停止条件付代物弁済契約を原因とする、所有権移転請求権保全の仮登記の本登記手続をせよ。訴訟費用は同被告の負担とするとの判決を求める。

(被告東亜木材加工株式会社) 原告の請求を棄却するとの判決を求める。

第二、当事者の主張

(原告)〔請求原因〕

一、被告秋北木材株式会社に対する請求原因第一項に同じ、(但し訴外東亜木材加工株式会社とあるのを、被告東亜木材加工株式会社と読替える。

二、同第二項(一)に同じ

三、同第二項(二)に同じ

四、同第二項(三)に同じ

五、前項記載の予約完結の意思表示は、仮登記の原因たる昭和三二年五月三一日付根抵当権設定商取引契約第一七条に規定されている代物弁済の予約完結の意思表示としての効力をも有するものである。

六、仮に右意思表示が仮登記の原因たる代物弁済の予約完結の意思表示たる効力がないとしても、原告は、昭和三五年一一月一七日、改めて右代物弁済予約完結の意思表示をなした。

七、よつて、原告は、被告東亜木材加工株式会社に対し、右仮登記に基く、本登記請求権がある。

〔抗弁に対する答弁〕

一、抗弁第一項の事実は否認する。昭和三二年五月三一日付代物弁済予約と、和解事件における代物弁済予約とは代物弁済充当原因を異にするものとして併存し代物弁済充当原因の相違に基き、原告は被告に対し、二個の登記請求権を有するものである。

二、同第二項の事実は否認する。

三、被告主張の如き登記及び主張の日に訴外会社に建物所有権を譲渡した事実は認め、その余は争う。

(被告東亜木材加工株式会社)〔請求原因に対する答弁〕

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実は、認める。但し主張の債権の数額は争う。

三、同第三項の事実中、主張の如き和解調書が作成された事実のみを認め、その余は争う。

四、同第四項の事実中、主張の如き意思表示が主張の日に到達したことは認める。

五、同第五項は否認する。主張の意思表示には、大阪都島簡易裁判所昭和三二年(イ)第二九三号和解条項に基く意思表示である旨明記され、且つ商取引契約一七条に定める約定評価額の指示がなされていない。したがつて右意思表示は、右商取引契約一七条の予約完結の意思表示としての効力を有しない。

六、同第六項の事実中、主張の如き意思表示がなされた事実は認める。しかし、右意思表示も、前記約定評価額の指示がないから商取引契約一七条の代物弁済の予約完結の意思表示たる効力を有しない。

七、同第七項の主張は争う。

〔抗弁〕

一、仮に、原告主張の裁判上の和解が有効であるとすれば、原告主張の、昭和三二年五月三一日付根抵当権設定商取引契約は右和解によつて効力を失つたものである。即ち、

右和解は、従来の手形債務立替金債務につき準消費貸借契約を締結し、これにつき分割弁済の方法を定め、新債務の不履行に備えて新らたな代物弁済の予約をなしたものであるから、仮登記の原因たる昭和三二年五月三一日付代物弁済の予約は、右和解によりその効力を失つたものである。

二、右主張にして理由がないとしても、被告は、昭和三五年一一月一七日以前において、数回に亘り債務全額を弁済する旨、申出るも、原告から、予めその受領を拒まれたので、被告は、弁済の準備をしていたが履行することが出来なかつたものであるから、被告は未だ前記債務につき履行遅滞に陥つていない。したがつて原告のなした予約完結の意思表示は未だその効果を生じないものである。

三、仮に以上の主張が全て認められないとしても、原告は既に、前記和解調書に基き、昭和三二年一二月六日本件建物につき所有権移転登記をなし、且つ、昭和三五年九月二六日訴外山貞木材合名会社に右建物を譲渡しているものであるから、原告にはもはや主張の如き登記請求権はないものである。

(立証)〈省略〉

理由

(昭和三三年(ワ)第四五八一号、同三五年(ワ)第八〇三七号事件)

一、原告は、昭和三二年一一月一一日、代物弁済により、訴外東亜木材加工株式会社から別紙物件目録第二及び第三記載の建物の所有権並びに同目録第一記載の土地の賃借権を取得したと主張し、被告はこれを争うので先ずこの点につき判断する。

(一)  訴外東亜木材加工株式会社が訴外宗教法人富岡八幡宮所有に係る別紙物件目録第一記載の土地につき賃借権を有し、同土地上に同目録第二及び第三記載の建物(右建物のうち、第三記載の建物の全部及び第二記載の建物の一部は、昭和三五年一月一五日、火災により滅失した)を所有していたことについては当事者間に争いがない。

(二)  証人村上初太郎、同保田克己、同富樫又治、同尾崎謙、同水島耕三、同梅北末初(第一、二回)の各証言、及び、成立に争のない甲第一号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、乙第二号証第四号証第十二号証の一、二、丙第四号証第五、六号証の各一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第十、十一号証の各一、二、第十二号証の一ないし三、第十三号証の一ないし五、並びに証人村上初太郎、同保田克己の各証言によつて成立が認められる甲第五号証の一、二、第六号証の一、第七号証の一、二、証人水島耕三同保田克己の各証言により成立が認められる甲第十一号証の一、第十二号証の二の各証拠を総合すると次の事実を認定することが出来る。

(1)  原告会社は、昭和三二年一月頃から右訴外会社と木材の売買取引を初め、同年五月頃までの間に総額約一五〇〇万円に及ぶ木材を右会社に売渡しその代金支払のため右会社から、同社振出の約束手形の交付を受けていたが、右会社は、その経営不振から第一回目の約束手形である満期同年五月十日金額五〇〇万円の手形の支払が不可能である旨原告会社に通知し、右約束手形決済の為、原告会社が右会社に売渡した原木の買取方を申入れてきたので、原告会社はこれを承諾して原木約二、四〇〇石を五〇〇万円に評価して引取り、右約束手形の支払に充当したが、なお、残る数通の手形についてもその支払が不可能であるから右手形を原告会社で買取つてほしい旨の申入れをしてきたので、原告会社は昭和三二年五月三一日、右会社との間に根抵当権設定商取引契約を締結し、本件建物その他の物件につき限度額を一〇〇〇万円と定めて根抵当権設定契約をすると共に右商取引契約第一七条において、債務不履行のときは、原告の撰択に基き、右抵当権の実行に代えて原告の一方的意思表示により、代物弁済として本件建物の所有権及び本件土地の賃借権を原告に移転する旨の代物弁済の予約をなし、同年六月五日、右建物につき根抵当権設定登記並びに右代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記手続を完了した上で右会社のために前記手形の買戻しをなした。

(2)  しかし、其の後も右会社の経営状態は好転せず、昭和三二年六月頃からは休業状態となり、原告会社に対する前記約一〇〇〇万円の債務の支払も不可能なので、原告会社及び右会社の当時の代表者梅北末初、並びに同人の相談役訴外富樫又治、右会社の取締役木村末治などの関係者の間において右会社の整理再建を図るための方策につき話合がなされた結果、後記和解条項の如き内容の話合が成立したが、原告会社は担保物件の確実な換価の確保を期するため、裁判上の和解をなすことを提案して和解条項案を右梅北に示したところ、同人はこれを承諾し、同年七月一二日頃、原告会社東京支店において同支店長保田克己立会の下に、受任者欄並びに日付欄等空白の、右和解条項案付白紙委任状に記名押印並びに契印して原告会社に提出し、原告会社代理人池田俊弁護士が右白紙委任状に基き、知合の後藤三郎弁護士を相手方代理人に選任し、同年九月六日、大阪都島簡易裁判所において、右後藤弁護士を東亜木材加工株式会社の代理人として、右和解条項案記載の内容にしたがい「東亜木材加工株式会社は原告会社に対し、昭和三二年七月一二日現在、約束手形金並びに立替金、合計九、七二九、七一〇円の債務を有することを確認し、右債務を消費貸借に引直して、昭和三二年八月より完済に至るまで毎月末日限り金四〇万円宛、分割して支払うこととし、分割金の支払を二回以上遅滞したときは、期限の利益を矢い、一時に右金員全額を支払うこととし、債務不履行の場合は、原告の撰択により、既に設定登記済の抵当権の実行に代えて、原告の一方的意思表示により、右債務金並びに原告が別に右会社に融資した五〇万円の債務の代物弁済として本件建物その他の物件を原告に移転し、右予約完結の通知到達後十日以内に右建物の所有権移転登記手続をなしてこれを原告に明渡すべきこととする」旨の裁判上の和解をなした。

証人梅北末初(第一、二回)の証言、及び、丙第六号証の一、二、第一一号証の一、二、第一三号証の三、四の記載のうち、右認定に反する部分は前記証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  被告は、右裁判上の和解は無権代理人によつてなされたものであるから無効であると主張するのでこの点につき判断するに

右認定の事実によれば、東亜木材加工株式会社の代理人として右和解に関与した後藤三郎弁護士は右会社の代表者梅北末初が、自ら選任したものではなく、原告会社代理人池田俊弁護士において選任したものであるけれども、なお東亜木材加工株式会社を代理して右和解を締結する権限を有していたものであつて無権代理人とはいえない。蓋し、訴外梅北末初は、東亜木材加工株式会社の代表者として、前記和解条項案にしたがつて裁判上の和解をなすことを承認した上、右裁判上の和解をなすための代理人選任を、原告会社代理人に一任することに同意して白紙委任状に自ら記名捺印をなして原告に差入れ、原告代理人が、右白紙委任状に基づいて訴外後藤弁護士を相手方代理人に選任して右和解をなしたものであり、更に、右裁判上の和解条項は、東亜木材加工株式会社代表者梅北が予め承諾した和解条項案と全く同一であるから、右後藤弁護士を東亜木材加工株式会社の代理人として選任して、同人との間に右裁判上の和解をなした原告代理人池田俊弁護士の行為は、右会社に対し何ら不利益を被らしむる虞れがないものであるから双方代理又は弁護士法第二五条に抵触するものではない。

よつてこれ等の点に関する被告の主張はいづれも理由がない。

(四)  更に被告は右和解条項は、東亜木材加工株式会社の営業の譲渡を内容とするものであるにも拘らず株主総会の特別決議がなされていないから無効であると主張するが商法第二四五条一項一号に規定する営業の譲渡とは、企業を有機的一体として譲渡することをいうのであつて、単なる営業財産の譲渡をいうものではないと解するを相当とする。したがつて右和解の対象となつた前記物件が、仮に東亜木材加工株式会社の全財産に該当するとしても、右和解条項は営業財産のみの移転を内容とするに過ぎないもので、右財産と共に右会社の営業を譲渡する趣旨であつたことについてはこれを認めるに足る証拠がないから右和解を以つて営業譲渡と目すべきではない。よつてこの点に関する被告の主張も採用し難い。

(五)  したがつて、前記裁判上の和解は有効なものであると認められるところ、東亜木材加工株式会社が、右和解条項に規定する分割弁済金の支払を履行せず、同会社の再建の見込が全くなくなつたので遂に原告は、昭和三二年一一月九日、右会社に対し右和解条項にる定めところにしたがつて代物弁済の予約完結の意思表示をなし、右意思表示は、同月一一日右会社に到達した(以上の事実は成立に争ない甲第二号証の一、二、証人村上初太郎同保田克己の各証言によつてこれを認める)ものであるから、原告は右意思表示到達の日である、昭和三二年一一月一一日、本件建物の所有権並びに本件土地の賃借権を取得したものである。

(被告は、代物弁済契約においては、その要物性から、登記又は現実の引渡があつた時に所有権が移転するのであるから、原告が本件建物の所有権を取得したのは、昭和三二年一一月一一日ではなく、右建物につき登記がなされた同年一二月六日であると主張する。代物弁済契約そのものは、所謂要物契約であつて、被告主張の通りであるが、予約完結権を留保する代物弁済の予約にあつては、代物弁済契約そのものとは、その理由を異にし、特約なき限り、予約完結の意思表示がなされた時に当事者間に於て所有権移転の効果が生ずると解するを相当とする。)

(六)  而して、原告が右建物につき前記和解調書の執行により、昭和三二年一二月六日所有権移転登記手続を完了したことについては当事者間に争いがなく、証人押本又三の証言、及び参加人代表者山木貞次郎の本人尋問の結果(第一回)、並びに証人押本又三の証言により真正に成立したものと認められる丙第二号証によると訴外富岡八幡宮は昭和三二年一二月末頃には前記和解によつて本件土地の賃借権が原告に譲渡されたことを承認し更に参加人会社代表者山木貞次郎よりの申入により近い将来右借地権を本件建物と共に参加人が譲渡を受けることについてもその承諾をあたえたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、証人尾崎謙、同押本又三の各証言並びに参加人代表者山木貞次郎の本人尋問(第一回)の結果及び成立に争のない丙第一号証の一、二、丙第四号証、証人尾崎謙の証言により成立が認められる丙第三号証の各証拠を綜合すると、

参加人山貞木材合名会社は原告会社の取引先で材木問屋を営む会社であるが、自ら製材業を始める目的で製材工場を物色中のところ、昭和三二年一〇月頃、偶々原告会社から本件工場が入手出来る見込である旨紹介され、調査したところ、原告会社と訴外東亜木材加工株式会社との間に、既に前記の如き裁判上の和解が成立しておる上右工場は休業状態であつたため、容易に引渡を受け得るものと信じて、同年十一月初旬頃、原告会社との間に本件建物を本件土地の賃借権と共に買受ける約束をなしていたが、本件建物に関し、訴外東亜木材加工株式会社から原告会社に別件訴訟(都島簡易裁判所、昭和三二年(ハ)第三五三号)が提起され、明渡の見通しがつかなかつたため、所有権移転登記が遅れていたところ、右訴訟が原告会社勝訴の判決になつたため、昭和三五年九月二六日原告会社から参加人会社に対し本件建物の所有権移転登記手続がなされ、同日をもつて、右建物の所有権を参加会社に移転したものであることが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。

尚、本件土地の賃借権の参加会社えの譲渡については、前記認定の如く、予め富岡八幡宮の承諾を得ていたものである。

三、そこで、被告会社が本件建物を参加会社に明渡す義務があるか否かを考察する。

(一)  被告会社が、本件建物を占有していることについては当事者間に争いがない。

(二)  而して被告は、賃借権に基づいて右建物を占有しているものであると主張する。

証人梅北末初(第一、二回)同田中清の証言、被告秋北木材株式会社代表者木村末治の本人尋問(第一回)の結果、並びに右梅北、田中の各証言及び木村末治の本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証、によると、被告会社は、訴外東亜木材加工株式会社との間に、昭和三二年一一月二七日、本件建物につき、期間、昭和三二年七月一日から満二ケ年、賃料一ケ月一五万円とする賃貸借契約を締結し、おそくとも右一一月二七日には、右建物の引渡を受けてこれを使用していた事実を認めることが出来、右認定を覆すに足る証拠はない。原告は右賃貸借契約は、右両会社が、本件建物の所有権が、既に原告会社に移転していることを了知した上で、原告会社の権利行使を妨害するために、通謀してなした虚偽の意思表示によるものであるから無効であると主張する。而して後記認定の通り、右両会社は、本件建物所有権が原告に移転したものであることを承知の上、その後に右賃貸借契約を締結したものであるけれども、右事実を以つて、直ちに右賃貸借契約が虚偽のものとは認め難く、他に右賃貸借契約が虚偽のものであることを認めるに足りる証拠はないので右の点に関する原告の主張は採用し難い。

(三)  そこで右賃貸借の対抗力につき考察する。

建物の引渡を受けた借家人は、引渡後にその建物につき所有権を取得した者に対し、借家権をもつて対抗し得るものであることは借家法第一条の規定するところであるが右所有権の取得が建物引渡後になされたものか否かは、所有権取得の対抗要件たる登記がなされた時を基準として決定するのが相当である。蓋し、建物所有権を取得した者は登記がなされない限り、右建物につき賃借権を有する者に対し、その所有権取得を主張し得ないのが原則であるからである。

したがつて借家である建物の引渡がなされる以前に、建物所有権の移転がなされていたとしても、その移転登記が右引渡に遅れるときは、借家人は借家権をもつて、新所有者に対抗出来るものというべきである。

然るところ、前記認定の事実によれば、借家人たる被告は原告が本件建物の所有権移転登記をなす以前に、既に右建物の引渡を受けていたものであるから、被告は原告に対し、右借家権を以つて対抗しうるものと言わなければならない。

原告は、被告は、右建物の所有権が既に原告に移転したものであることを知りながら、その後に、原告の権利行使を妨害せんとして、前記賃貸借契約を締結した悪意の第三者であるから、登記の欠缺を主張出来ない。したがつて、原告は、被告に対しても、昭和三二年一一月一一日付で所有権を取得したことを主張しうるものであるから、借家法第一条に所謂爾後の物権取得者ではない、と主張する。

而して、後記認定の事実によれば原告主張の如く、被告会社は右期日に原告が本件建物の所有権を取得した事実を知りながら右賃貸借契約を締結したものであるけれども、かゝる善意、悪意によつて民法第一七七条の適用が左右されるものではないと解するを相当とするから、これを異なれる見解を前提とする原告の主張は採用し難い。

結局被告は原告に対し、右賃借権を以つて対抗しうるものであり、原告に対し、右賃借権を対抗し得る以上、その後に右建物の所有権を取得した参加人に対しても、右賃借権の存続している限りこれをもつて対抗しうることは明らかである。

(四)  そこで右賃貸借が期間満了により終了したものなりや否やにつき考察する。

(i) 被告は、原告が更新拒絶の通知をなした事実はないと主張するので先ずこの点につき判断するに

原告は昭和三三年六月十二日被告に対し、賃貸借の目的物件の返還を求める訴を提起し、以来右訴訟において被告の賃借権の主張を否認して右賃貸借の存続と相容れない主張をしていることは明らかであるから、若し被告が期間の定ある賃借権を有する場合には、右賃貸借の更新拒絶ならびに期限満了後は賃貸借を継続しない意思を表明したものと解することが出来、且つ被告も、原告の右の如き意思を了知していたものと認められるから、原告は被告に対し、適法な更新拒絶の意思表示をなし、且つ、期間満了後遅滞なく異議を述べたものと認めるを相当とする。

(ii) そこで、右更新拒絶に正当事由があるかどうかを判断する。

証人村上初太郎、同保田克己、同田中清、同梅北末初(第一回)の各証言及び、被告秋北木材代表者木村末治(第一、二回)同東亜木材株式会社代表者田中清、参加人山貞木材合名会社代表者山木貞次郎(第一、二回)の各本人尋問の結果、並びに、成立に争いのない、甲第二号証の一、二、第八号証、証人村上初太郎、同保田克己の各証言により真正に成立したものと認められる甲第十号証の一ないし四、既に成立を認めた乙第一号証、被告会社代表者木村末治の本人尋問の結果成立を認められる乙第三号証、成立に争いのない乙第五号証、丙第七号証の二、第九号証の二、第十一号証の二、第十二号証の二、第十三号証の五の各証拠を綜合すると次の事実を認めることが出来る。

イ、本件工場は、もと被告会社の所有で、同会社は右工場で、南洋ラワン材の製材加工を行つていたが、昭和三一年頃、営業不振に陥つて、多額の負債が生じ、同会社振出の約束手形の不渡を妨止するためにさしあたつて約八〇〇万円の資金の必要に迫られていたところから、右資金を作るため、訴外梅北末初、同田中清等の協力を得て、昭和三一年一一月頃、訴外東亜木材加工株式会社(代表者梅北末初)を新らたに設立した上、同会社に、当時々価約二〇〇〇万円相当の本件工場を約八〇〇万円で譲渡したが、被告会社代表者の木村末治も右新設会社の取締役の肩書で同会社の共同経営者として同会社の経営に参加していた。被告会社は、右工場譲渡後も、右の如き経緯から本件工場に原木を廻して右工場で製材してもらつたのを販売していた。

ロ、而して被告会社代表者木村末治は、右東亜木材加工株式会社の共同経営者として、同会社と原告会社との間の取引関係の事情本件工場につき根抵当権設定登記、ならびに代物弁済予約の仮登記がなされるに至つた経緯、及び前記の如き裁判上の和解が締結されるに至つた経緯などを知悉していたものであるが、昭和三二年六、七月頃、右東亜木材加工株式会社が、同会社代表者梅北末初の経営能力不足などから、経営に失敗して休業状態に入るや、同年九月頃から、被告会社の社員をして本件工場の機械の修理、整備などを始め、同年一〇月末頃から右工場を事実上占有使用して製材を行つていた。

ハ、此の間、右東亜木材加工株式会社の倒産は必至で、原告会社に対する債務支払の見込が立たない状態であつたため、右工場を前記担保権の実行として原告会社に取得されることは、もはや避けられないものであることを認識していた右木村末治は、田中清、梅北末初などを伴つて、再三原告会社を訪れて右建物の賃借方を申込んだが、原告会社に拒絶され、原告会社が右建物を第三者に賃貸する意思のないことを知つたが、更に、其の後右木村は、参加人山貞木材合名会社が、自己の製材工場として使用するため原告会社から本件建物を買受ける約束が成立している事実も知つていた。

ニ、而して右木村は、昭和三二年一一月一一日に原告会社から右東亜木材加工株式会社に対し、前記代物弁済予約完結の意思表示が到達したことを知り、そのまゝでは原告会社の明渡要求に応ぜざるを得なくなつてしまうことを心配し右明渡要求を阻止するため、早速同月十三日、右東亜木材加工株式会社の当時の代表者、梅北末初に対し、同人の責任を追及し、株主総会の招集を求める書面を送るとともに、同月二七日右梅北との間に右建物につき前記賃貸借契約を締結し、更に同月三〇日、右会社の株主総会を開催して右梅北が締結した本件建物の代物弁済契約を承認しない旨の決議をするなどの措置を講じた。

ホ、一方原告会社は、既に認定の如き経緯により、約一千万円の債権の担保権の実行として、本件建物の所有権を取得したものでその所有権取得につき、特に責むべき何らの瑕疵もないものであり、担保権実行の暁には、容易に本件建物の明渡を受け得るものと信じて、昭和三二年一一月初旬取引関係のあつた参加人に右建物を参加人の工場として使用する目的で売渡す約束をなしていたものである。

証人梅北末初、同田中清の各証言被告代表者木村末治、同田中清の各本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信せず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(iii ) 以上認定事実から判断すると原告会社には自ら右建物を使用する必要性は認められないけれども、若し、本件賃貸借契約が引続き存続するものとすれば原告会社は、参加人に対する債務を履行出来なくなりその責任を負わされこれにより蒙る損害は大きなものとなる。

これに反し、被告会社と訴外東亜木材加工株式会社とは、特に緊密な関係にあり、被告会社の代表者木村末治は、右東亜木材加工株式会社の取締役として右会社の経営に積極的に参加すべき地位にあつて、原告会社と右会社との取引関係、本件建物につき代物弁済予約の仮登記がなされるに至つた経緯、及び前記裁判上の和解がなされた経緯などを知悉していたものであるから、右会社が倒産して、本件建物を原告会社に移転するの止むなきに至つたことについては、訴外梅北末初のみならず、右木村末治にも、一半の責任があつたものというべきである。

それにも拘らず、昭和三二年一一月一一日に、原告会社の予約完結の意思表示が到達して、原告会社に本件建物の所有権が移転し、原告会社に対し右建物を明渡すべき義務が生じたことを知りながら、右建物の明渡を阻止するために本件賃貸借契約を締結したものであること前認定のとおりである。

若し、被告会社が本件建物を明渡さなければならないとすれば同会社は、これによつて著るしい損失を受けることもまた明らかであるが、前記の如き事情を併せ考えると、右損失は被告会社と訴外東亜木材加工株式会社又は当時の代表者の訴外梅北末初との間の内部関係として決済されるべきものであつて、かゝる内部事情を以つて、原告会社の損失を無視することは適当でないと考える。

右のように以上認定の諸事情を綜合して判断すると、結局原告のなした更新拒絶には正当な事由があると認めるを相当とする。したがつて、右賃貸借契約は昭和三四年六月三〇日、期間満了により終了したものというべきである。

(五)  而して参加人は、右賃貸借終了後に本件建物の所有権を取得したものであること前認定のとおりであるから、他に主張立証のない本件では被告は参加人に対し、右建物を明渡すべき義務がある。

四、次に、被告会社が参加人に対し別紙物件目録第四記載の建物を収去して本件土地を明渡すべき義務があるかどうかにつき考察する。

(一)  被告会社が本件土地上に別紙物件目録第四記載の建物を建築所有して右土地を占有していることについては当事者間に争いがない。

(二)  参加人は、訴外富岡八幡宮の承諾を得て、原告会社から本件土地の賃借権の譲渡を受けたものであることは前記認定の通りである。

(三)  参加人は、右賃借権者として、賃貸人たる右土地の所有者訴外富岡八幡宮に代位して、右土地の明渡を請求するものであるところ、被告会社は、右土地を訴外東亜木材加工株式会社から転借しているものであると主張するが、転借人が、賃貸人たる地主に対し、右土地の転借権を以つて対抗しうるためには、右転借につき、賃貸人たる地主の承諾を得ていることが必要であること、民法六一二条の規定するところである。しかるに被告は右承諾についての主張も立証もしていないから、既にこの点において、訴外富岡八幡宮に対し、主張の如き転借権を以つて対抗し得ないことは、明白である。

(四)  よつて被告は、訴外富岡八幡宮に対し、本件土地上に別紙物件目録第四記載の建物を建築所有して右土地を占有する正当な権限を有していないものといわなければならないから、右富岡八幡宮の右土地所有権を代位行使して右土地の明渡を請求する参加人に対し、右建物を収去して右土地を明渡すべき義務がある。

五、最後に損害金につき判断する。

(一)  前記認定の通り本件建物(別紙物件目録第二及び第三記載の建物)の賃貸借契約は、昭和三四年六月三〇日を以つて終了したものであるから、被告会社は、右期日以後、正当の権限なくして右建物を占有(別紙物件目録第三記載の建物については、焼失した昭和三五年一月一五日まで占有)したことになり、原告及び参加人に賃料相当額の損害を与えていることは明白である。而して、右建物の客観的な賃料相当額は必ずしも明確に認定出来ないが、証人梅北末初同田中清の各証言、及び被告秋北木材代表者木村末治の本人尋問(第一回)の結果及び既に成立を認めた乙第一号証、並びに右田中清の証言、及び被告代表者木村末治の本人尋問(第二回)の結果により真正に成立したものと認められる乙第九号証の一ないし五によると、右建物の賃料額は、被告会社と東亜木材加工株式会社との間では昭和三二年一二月分は一ケ月一五万円であつたが同三三年一月分からは一ケ月一〇万円に減額され、火災のあつた昭和三五年一月一五日以後は一ケ月四万円であつた事実が認められ、他にこれに反する証拠もないので、右認定の賃料額が、賃料相当額であると解するを相当とする。

したがつて被告は、原告に対し、右賃貸借契約が終了した日の翌日である昭和三四年七月一日から、原告が右建物所有権を参加人に移転した日の前日である昭和三五年九月二五日まで、右賃料相当額にしたがつて計算した額、合計九八三、三三三円(一日未満切捨)の損害金を支払う義務があり、参加人に対しては、参加人が所有権を取得した昭和三五年九月二六日から右建物の明渡完了に至るまで一ケ月四万円の割合による賃料相当額の損害金の支払をなす義務がある。

原告は昭和三二年一二月一日から賃料相当損害金として金一五万円の支払を請求しているところ前認定事実によると昭和三二年一二月六日から昭和三四年六月末日までは約定賃料の請求権を有するものといえるが原告が損害金の起算点として被告の本件建物の占有の始期を基準にしていること被告との賃貸借を極力否認し終始損害金として請求している点から考えて賃料としての請求はないものとして判断する。

(二)  尚、参加人は、土地の不法占有に基く損害金の支払をも併せて請求している如くであるが、被告の本件土地の不法占有の開始時期(即ち別紙物件目録第四記載の建物の建築時期)、及び土地の賃料相当の損害額についての主張、立証がなされていないので、この点に関する参加人の請求は、理由がないものとする。

(昭和三五年(ワ)第九五二〇号事件)

一、原告会社は、被告会社と木材の販売取引をなし、多額の売掛金及び約束手形金債権を有していたものであるが、昭和三二年五月三一日、被告会社との間に、被告会社所有に係る別紙物件目録第二及び第三記載の建物につき、限度額を一千万円とする根抵当権設定契約をすると共に、被告会社が、原告会社に対する前記債務を履行しないときは、原告の一方的意思表示により右建物の所有権を右債務の代物弁済として原告に移転する旨の代物弁済の予約を締結し、同年六月五日、右代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記手続を完了したものであることについては当事者間に争いがなく、その後の経緯については全て別件で既に、認定した通りである。

二、そこで原告が被告に対し右仮登記に基く本登記請求権を有するかどうかについて考察する。

(一)  前記認定の通り、昭和三二年九月六日、原告会社と被告会社との間に、認定の如き経緯から、認定の如き内容の裁判上の和解が成立したものであるが、右和解条項は、当時原告会社が被告会社に対し有していた総額約一、〇〇〇万円の売掛金及び約束手形金債権を確認した上、右債権を、消費貸借上の債権に改めて、その分割弁済を定めると共に、右債権の担保のため、被告が分割弁済金の支払を怠る時は、原告の一方的意思表示により、右債務の代物弁済として本件建物の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約を定めている。

すなわち右和解は、所謂準消費貸借契約を内容とするもので、右和解によつて、従来の売掛金及び手形金債権が消滅して新らたに、消費貸借上の債権が発生したものと解すべきである。

(二)  準消費貸借が行われた場合、旧債務に附着する各種の権利が当然に新債務に移転するものとは云えないけれども、旧債務に伴う担保権の如きは、当事者間にこれを排除する別段の意思表示なき限り、原則として新債務の担保権としてそのまゝ有効に存続するものと解するを相当とする。

(三)  そして、本件和解において当事者間において右の如き別段の意思表示のあつたことはこれを認めるに足る証拠がないばかりか、前認定の本件和解締結の経緯などから、却つて、旧債務に伴う担保権は全て、新債務についても存続させる意思であつた、と認めるのが相当である。

したがつて、旧債務の担保を目的とする昭和三二年五月三一日付の本件建物についての代物弁済の予約は、新債務のための担保権としてひきつづき有効に存続していたものと認められ、甲第一号証によつて認められる本件和解条項第五条における代物弁済予約の規定は、このことを確認した趣旨と解される。

したがつて、本件和解において規定されている代物弁済の予約に基く、本件建物所有権移転請求権は、依然として前記仮登記によつて保全されていたものと解するを相当とし、右和解によつて、右仮登記の効力が消滅したとする被告の主張は採用し難い。

(四)  而して原告は、前記認定の通り、予約完結権行使の要件を具備した上で、昭和三二年一一月九日右完結の意思表示をなし、右意思表示は同月一一日被告に到達したものである。(被告は、昭和三二年五月三一日の契約によれば予約完結の意思表示は、該物件の評価額を指示して行うものと約定されているにも拘らず、右意思表示には、かゝる約定評価額の指示を欠くから予約完結の意思表示たる効力を有しないと主張する、甲第一号証によれば、右の如き約定があることが認められ、且つ、右意思表示が約定評価額の指示を欠いたものであることは当事者間に争いがないものであるが、かゝる約定評価額の指示の欠如は、予約完結の意思表示の効力を左右する程重要な要素ではないから、右意思表示は、これを欠いたからといつて無効とはならないと解する、)よつて、右予約完結の意思表示をなした時に、原告は被告に対し、本件建物につき、右仮登記の本登記請求権を取得したものである。

(五)  仮登記に基く本登記請求権を有する者と雖も、必ずしも、仮登記の本登記という形式にしたがつて所有権移転登記をなさなければならないというものではなく、右仮登記による順位保全の効力を放棄して、通常の所有権移転登記手続をなし得ることは勿論であるが、仮登記に基づく本登記請求権を行使しうるにも拘らず、これによらないで、通常の所有権移転登記手続をなした以上、仮登記に基く本登記請求権を放棄したものと見做され、其の後は、もはや、仮登記の本登記をなし得ないものと解するを相当とする。蓋し、かく解さなければ、右建物に関する事後の権利関係が複雑、且つ不安定になり取引の安全が害されること甚しいからである。

(六)  しかるとき、原告は、前記認定の通り、仮登記に基く本登記請求権を有しながら、これによらないで、前記和解調書の執行によつて、既に、所有権移転登記手続を経ているものであるから、もはや、仮登記に基く本登記請求権は有しないものというべきである。

よつてその余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

(結論)

以上判示の通り、結局、原告の、被告秋北木材株式会社に対する請求は、金九八三、三三三円の支払を求める限度で理由があるのでこれを容認してその余は棄却することとし、被告東亜木材加工株式会社に対する請求は理由がないので棄却することとし、参加人の、被告秋北木材株式会社に対する請求は、別紙物件目録第二記載の建物の明渡、並びに同目録第四記載の建物を収去して、同目録第一記載の土地の明渡、及び、昭和三五年九月二六日から右建物明渡に至るまで一ケ月四万円の割合による損害金の支払、を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言については、同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一)

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